雨が降れ

雨の日に思い出すのは、私の人生を変えた人のこと





私は彼のことをあまり知らなかった。
知っていたけど、知らなかった。
本当の彼のことは、知らないふりをしていた。





出会って、半年後に初めて二人で会った日。
雨が降っていた。五反田の駅で、彼を待った。



そのときはまだ小雨で、私は傘をさしていたけれど、彼は傘をさしていなかった。大丈夫ですか?と聞くことはできても、入りますか?とは言えなかった。言ってはだめな気がしていた。


少し話してお店を出ると、雨が強くなっていた。
それでも彼は傘をささなかった。
傘を持っていなかったのか、どうなのか。
今でもわからないということは、聞かなかったということで、



でもさすがに、濡れて風邪をひいては困ると思って傘を差し出した。ずっと遠くにいた人が、肩の触れ合う距離にいることが、信じられなくてでも確かに感触があってよくわからない気分だった。



駅で別れるときに彼が困ったような顔で言った「また連絡してもいいですか?」という言葉は確かに覚えているけれど、その後彼は家に着くまでに雨に濡れずに済んだのだろうか。



どうしてそんな些細なことも聞けなかったのかとおかしくなってしまうくらい。きっと、雨が降っていなければ、距離をおいて駅まで歩いていれば、彼のことを実在しない人のように思えたのにね。

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